正直、やめておけばよかったと思った
先日、フォレストアドベンチャー秩父に家族4人で行ってきました。
木の上に張った吊り橋を渡って、最後にジップラインで滑り降りる、あれです。
言い出したのは娘のメグです。どうしても行きたい、と。
で、僕がずっと引っかかっていたのが、息子のリョウのことでした。リョウは重度の知的障害があって、言葉を話しません。高いところに登って、命綱を自分で付け替えて、空中を渡る。それが、できるのか。
正直に言うと、行く前から「無理かもしれない」と思っていました。
でも娘が行きたいと言っている。じゃあ行くだけ行ってみよう。ダメなら奥さんとリョウにはその辺で遊んでいてもらって、僕とメグの2人でやればいい。
そんな、ちょっと逃げ道を用意した状態で、秩父に向かいました。
最初のレクチャーで、止まった
まず最初に、安全器具の付け方や渡り方を教えてもらう練習コースがあります。低いところで一通りやってみる、というやつです。
高いところの吊り橋を渡るパートは、リョウはできました。ゆっくり、ゆっくりですけど、ちゃんと進む。
問題は最後です。ジップラインで滑り降りるところ。
飛ばない。
台の上に立ったまま、一向に飛ばない。怖かったんだと思います。足元が宙に浮く感覚が、たぶん言葉にできないまま怖い。
後ろにはメグが並んでいて、「早くしてよ」と、だんだんイライラしてくる。
その時、僕の頭の中は「あ、これは失敗したな」でした。
連れてこなきゃよかったか。ここまで来て、リョウだけ下で待たせるのか。娘は娘で機嫌が悪くなるし、奥さんにも申し訳ないし。
いちばん最初の、練習コースで、です。
時間はかかったけど、飛んだ
結局、かなり時間がかかりました。
でも、最後は飛びました。
シャーッと滑って、着地も問題なし。
飛んだ瞬間、僕は「よし」とも「すごい」とも言えなくて、ただ息を吐いた気がします。あ、1回いけた。それだけで十分だと思いました。
じゃあ、行けるところだけ行ってみようか。
そう言って、いちばん易しいコースに向かいました。

吊り橋は、1人ずつしか乗れない
実際のコースに入ると、練習とは高さが違います。
そして困ったのが、空中の吊り橋は基本的に1人ずつしか乗れないこと。
つまり、リョウが渡っている間、僕は手を貸せない。前に立って待つか、後ろから声をかけるか。それしかできない。
リョウはよちよちと、でも自分の足で、ちょこちょこ渡ってきてくれました。
2回目のジップラインは、また少し時間がかかりました。でも「いいや、飛ぶか」みたいな顔をして、飛んだ。
意外と、飛ぶんですよ。あれだけ怖がっていたのに。
係の人が、気づいていた
ここからが、今回いちばん書きたかったところです。
1本目を終えて、2本目のもう少し難しいコースに入りました。ここは正直、リョウには結構ハードルが高かった。
途中で足が止まりました。もたもたしている。
そうしたら、係の方がスッと来て、手助けしてくれたんです。
たぶん最初のレクチャーの段階で、「この子はちょっと普通とは違うな」というのが、スタッフの間で共有されていたんだと思います。こちらから何も頼んでいないのに、困っている場面で、ちゃんと人が来てくれる。
おかげで2本目も、最後のジップラインまでたどり着いて、飛べました。
3本目はさすがに難しそうだったので、「2本できたから、ちょっと休もうか」と、リョウと奥さんには一度降りてもらって、その辺を散歩してもらうことにしました。
父と娘で、15mから100m
その間、僕とメグは2人で上級寄りのコースに入りました。
高さ15mくらいのところから、100mくらいを一気に滑空します。
これは、めちゃくちゃ爽快でした。
そこにたどり着くまでの縄ばしごや足場は、大人でもまあまあしんどいんですが、それを登りきった後に飛ぶ100mは、全部帳消しになる気持ちよさがあります。
メグはずっとニコニコしていました。

まさかのリョウ、合流
で、いちばん高いコースに行こうとしたら、散歩していた奥さんとリョウにばったり会ってしまったんです。
リョウが、やりたそうに付いてくる。
このコース、高さはいちばんあるけど、難易度自体はそこまで高くなさそうに見えた。
「試しにやってみるか」
今思えば、ちょっと軽い判断だったかもしれません。
というのも、ここのジップラインは、途中で引き返せないんです。安全器具をガチャッとレールに通した時点で、もう前に進むしかない。後戻りできない仕組みになっている。
案の定、途中でリョウが止まりました。
足がすくんで、進めない。でも、戻れない。
「これは、無理かもしれん」
空中で、ちょっとした立ち往生でした。

また、人が来てくれた
その時、また係の方が助けに来てくれました。
手を貸してもらいながら、少しずつ、少しずつ、吊り橋を渡りきって。
そして最後が、この施設でいちばん高いところ。高さ16m、長さ140mのジップラインです。
その頃にはリョウ、もう滑空には慣れていたんだと思います。
飛びました。
140mを、シャーッと。
一番最初に、低い練習台の上で固まっていた子が、です。
僕は下で見ていました。遠くの木の間から、だんだん近づいてくる小さい姿を見ながら、なんかもう、変な声が出そうでした。
知らなかったから、行けた
正直に書きます。
僕も奥さんも、下調べをほとんどしないで行きました。
着いてみて、「こんなに難しいのかよ」と2人で顔を見合わせたくらいです。もし事前にコースの写真や高さをちゃんと調べていたら、たぶん「リョウには無理だね」で、行くのをやめていたと思います。
知らなかったから、行けた。
そして、スタッフの方が本当によく見てくれていたから、最後までできた。
この2つがなかったら、今回の経験はありませんでした。
リョウ、かなりレベルアップしたと思います。たぶん親の方が、もっと。
行ってみて分かったこと
最後に、これから行く人向けのメモを少し。
土曜の午前中は空いていました。
お客さんはいるにはいましたが、まばらに散っている状態で、1つのコースに入ったら僕ら家族しかいない、ということが何度もありました。混んでいると後ろに人が並んでしまって、リョウのペースだと申し訳ない気持ちになっていたと思うので、ここは大きかったです。
90分コースにしたけど、120分でもよかった。
全部のコースは回りきれませんでした。リョウは途中で休憩を入れる前提なので、その間に僕とメグでもう少しいろいろ回る時間があったらな、と。次に行くなら120分にします。
事前の下調べは、しすぎない方がいい(かもしれない)。
これは人によると思います。でも僕らに関しては、知らなかったから挑戦できた、というのが本音です。
帰りの車の中で、リョウはいつも通り、窓の外を見ていました。
140m飛んだことを、本人は覚えているのか、いないのか。
言葉がないから、分からない。
でも僕は、たぶん一生覚えていると思います。

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