発語のない息子が、140mのジップラインを飛んだ。フォレストアドベンチャー秩父、知的障害児の家族でもできた話

育てる日々

正直、やめておけばよかったと思った

先日、フォレストアドベンチャー秩父に家族4人で行ってきました。

木の上に張った吊り橋を渡って、最後にジップラインで滑り降りる、あれです。

言い出したのは娘のメグです。どうしても行きたい、と。

で、僕がずっと引っかかっていたのが、息子のリョウのことでした。リョウは重度の知的障害があって、言葉を話しません。高いところに登って、命綱を自分で付け替えて、空中を渡る。それが、できるのか。

正直に言うと、行く前から「無理かもしれない」と思っていました。

でも娘が行きたいと言っている。じゃあ行くだけ行ってみよう。ダメなら奥さんとリョウにはその辺で遊んでいてもらって、僕とメグの2人でやればいい。

そんな、ちょっと逃げ道を用意した状態で、秩父に向かいました。

最初のレクチャーで、止まった

まず最初に、安全器具の付け方や渡り方を教えてもらう練習コースがあります。低いところで一通りやってみる、というやつです。

高いところの吊り橋を渡るパートは、リョウはできました。ゆっくり、ゆっくりですけど、ちゃんと進む。

問題は最後です。ジップラインで滑り降りるところ。

飛ばない。

台の上に立ったまま、一向に飛ばない。怖かったんだと思います。足元が宙に浮く感覚が、たぶん言葉にできないまま怖い。

後ろにはメグが並んでいて、「早くしてよ」と、だんだんイライラしてくる。

その時、僕の頭の中は「あ、これは失敗したな」でした。

連れてこなきゃよかったか。ここまで来て、リョウだけ下で待たせるのか。娘は娘で機嫌が悪くなるし、奥さんにも申し訳ないし。

いちばん最初の、練習コースで、です。

時間はかかったけど、飛んだ

結局、かなり時間がかかりました。

でも、最後は飛びました。

シャーッと滑って、着地も問題なし。

飛んだ瞬間、僕は「よし」とも「すごい」とも言えなくて、ただ息を吐いた気がします。あ、1回いけた。それだけで十分だと思いました。

じゃあ、行けるところだけ行ってみようか。

そう言って、いちばん易しいコースに向かいました。

よちよちと、でも自分の足で。親は後ろから見ているしかない
よちよちと、でも自分の足で。親は後ろから見ているしかない

吊り橋は、1人ずつしか乗れない

実際のコースに入ると、練習とは高さが違います。

そして困ったのが、空中の吊り橋は基本的に1人ずつしか乗れないこと。

つまり、リョウが渡っている間、僕は手を貸せない。前に立って待つか、後ろから声をかけるか。それしかできない。

リョウはよちよちと、でも自分の足で、ちょこちょこ渡ってきてくれました。

2回目のジップラインは、また少し時間がかかりました。でも「いいや、飛ぶか」みたいな顔をして、飛んだ。

意外と、飛ぶんですよ。あれだけ怖がっていたのに。

係の人が、気づいていた

ここからが、今回いちばん書きたかったところです。

1本目を終えて、2本目のもう少し難しいコースに入りました。ここは正直、リョウには結構ハードルが高かった。

途中で足が止まりました。もたもたしている。

そうしたら、係の方がスッと来て、手助けしてくれたんです。

たぶん最初のレクチャーの段階で、「この子はちょっと普通とは違うな」というのが、スタッフの間で共有されていたんだと思います。こちらから何も頼んでいないのに、困っている場面で、ちゃんと人が来てくれる。

おかげで2本目も、最後のジップラインまでたどり着いて、飛べました。

3本目はさすがに難しそうだったので、「2本できたから、ちょっと休もうか」と、リョウと奥さんには一度降りてもらって、その辺を散歩してもらうことにしました。

父と娘で、15mから100m

その間、僕とメグは2人で上級寄りのコースに入りました。

高さ15mくらいのところから、100mくらいを一気に滑空します。

これは、めちゃくちゃ爽快でした。

そこにたどり着くまでの縄ばしごや足場は、大人でもまあまあしんどいんですが、それを登りきった後に飛ぶ100mは、全部帳消しになる気持ちよさがあります。

メグはずっとニコニコしていました。

この器具をレールに通したら、もう前に進むしかない
この器具をレールに通したら、もう前に進むしかない

まさかのリョウ、合流

で、いちばん高いコースに行こうとしたら、散歩していた奥さんとリョウにばったり会ってしまったんです。

リョウが、やりたそうに付いてくる。

このコース、高さはいちばんあるけど、難易度自体はそこまで高くなさそうに見えた。

「試しにやってみるか」

今思えば、ちょっと軽い判断だったかもしれません。

というのも、ここのジップラインは、途中で引き返せないんです。安全器具をガチャッとレールに通した時点で、もう前に進むしかない。後戻りできない仕組みになっている。

案の定、途中でリョウが止まりました。

足がすくんで、進めない。でも、戻れない。

「これは、無理かもしれん」

空中で、ちょっとした立ち往生でした。

下から見ていると、本当に小さい。遠くの木の間から、だんだん近づいてくる
下から見ていると、本当に小さい。遠くの木の間から、だんだん近づいてくる

また、人が来てくれた

その時、また係の方が助けに来てくれました。

手を貸してもらいながら、少しずつ、少しずつ、吊り橋を渡りきって。

そして最後が、この施設でいちばん高いところ。高さ16m、長さ140mのジップラインです。

その頃にはリョウ、もう滑空には慣れていたんだと思います。

飛びました。

140mを、シャーッと。

一番最初に、低い練習台の上で固まっていた子が、です。

僕は下で見ていました。遠くの木の間から、だんだん近づいてくる小さい姿を見ながら、なんかもう、変な声が出そうでした。

知らなかったから、行けた

正直に書きます。

僕も奥さんも、下調べをほとんどしないで行きました。

着いてみて、「こんなに難しいのかよ」と2人で顔を見合わせたくらいです。もし事前にコースの写真や高さをちゃんと調べていたら、たぶん「リョウには無理だね」で、行くのをやめていたと思います。

知らなかったから、行けた。

そして、スタッフの方が本当によく見てくれていたから、最後までできた。

この2つがなかったら、今回の経験はありませんでした。

リョウ、かなりレベルアップしたと思います。たぶん親の方が、もっと。

行ってみて分かったこと

最後に、これから行く人向けのメモを少し。

土曜の午前中は空いていました。
お客さんはいるにはいましたが、まばらに散っている状態で、1つのコースに入ったら僕ら家族しかいない、ということが何度もありました。混んでいると後ろに人が並んでしまって、リョウのペースだと申し訳ない気持ちになっていたと思うので、ここは大きかったです。

90分コースにしたけど、120分でもよかった。
全部のコースは回りきれませんでした。リョウは途中で休憩を入れる前提なので、その間に僕とメグでもう少しいろいろ回る時間があったらな、と。次に行くなら120分にします。

事前の下調べは、しすぎない方がいい(かもしれない)。
これは人によると思います。でも僕らに関しては、知らなかったから挑戦できた、というのが本音です。


帰りの車の中で、リョウはいつも通り、窓の外を見ていました。

140m飛んだことを、本人は覚えているのか、いないのか。

言葉がないから、分からない。

でも僕は、たぶん一生覚えていると思います。

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