【親亡き後】重度知的障害の長男のために父が組む資産設計──障害年金・特定贈与信託・高配当株の使い分け

育てる日々

タカラが35歳になったとき、私はもういない可能性が高い。

冷静に計算すれば、ただの算数だ。私が今40代前半、タカラは小学生。平均寿命まで逃げ切ったとして、タカラが40歳の頃には私は80代半ば。発語のない重度知的障害を持つ長男が、一人暮らしを始める年齢ではない。むしろ、親の介護と自分の生活を同時に成立させる世代に、タカラは差し掛かっている。

——と、書いておきながら、正直に言っておきたい。

私は毎日、タカラと笑って過ごしている。楽しく生きている。大変な日も当然ある。でも「重度知的障害の子を育てる父親」と聞いて世の中が想像するような、重苦しい日々ではない。この記事は、悲観の記事じゃない。設計の記事だ。前向きに歩きたいから、冷静に数字と制度を並べて考える。その順序で書いていく。

同じ検索でこの記事にたどり着いた人なら、一度は深夜に電卓を叩いたことがあると思う。「親亡き後、うちの子はいくらで生きていけるのか」。情緒ではなく、数字で答えを出したくて眠れない夜のことだ。

この記事で書くのは、3つのこと。ひとつ、親亡き後にかかる生涯コストの試算。ふたつ、制度で埋まる部分と埋まらない部分。みっつ、重度知的障害の息子を持つ父親が、実際にどんな考え方で資産を設計しているか。希望も同情もいらない。設計図が欲しいはずだから、設計図を出す。

ステップやること中身
STEP1生涯コストを試算するいくら動くのか、情緒抜きで数字を出す
STEP2制度で埋める障害年金・特定贈与信託・成年後見
STEP3残りを設計する資産の置き方とキャッシュフロー
STEP4お金では埋まらない最後の1ピース居場所と、小さくていいから役割
この記事の全体像:「親亡き後」の問題は、この4つの層でできている。

前提──タカラのこと、私のこと

長男の名前はタカラ。重度知的障害で、発語はない。

私が本当にタカラの障害に気づいたのは、病院ではなく、本を読んでいた時だった。「クレーン行動」と「睡眠障害」——この2つの特徴が、タカラにモロに当てはまった瞬間がある。

タカラは夜20時頃に寝ると、1時頃に起きてしまうことがしょっちゅうで、そのまま5時まで起きている夜が続いていた。「変だな」と思っていた謎が、本の一節で一発で解けた。重度知的障害の子には睡眠障害が多いと、専門書でもたびたび指摘されている。点と点が、線になった瞬間だった。

姉はエナ。姉には、弟の面倒を背負わせる人生を送らせない。これは私と妻の、静かな約束だ。きょうだい児という言葉が示す現実を、私は現場で、そして家庭で、十分に見てきた。エナの人生は、エナのものだ。

私自身は、地域の食品スーパーで惣菜部門の主任を15年やっている。毎日、原価と人時と売上と廃棄ロスを睨み、現場を回してきた。設計して、実行して、ズレを修正する。この仕事で身についた「設計問題として扱う」という思考が、親亡き後の問題を直視する上で、私を救ってくれている。泣いていても数字は減らない。減らないなら、設計する。それだけだ。

そして——ここが大事なので繰り返す——この「設計する」は、諦めではなく、家族と笑って暮らすための下準備だ。今日という日を笑って過ごすために、未来の計算を冷静に済ませておく。順番が逆ではない。

親亡き後にかかるお金──生涯コスト試算

まず、タカラがこの先どう暮らすかで、生涯コストは大きく変わる。ざっくり3パターンある。

ひとつ、グループホーム入所。月額の自己負担は、利用料・食費・雑費を含めて数万円〜10万円台になるケースが多いとされる。ただし所得区分によっては、家賃補助(特定障害者特別給付費:月額1万円まで)や利用者負担軽減が入り、低所得世帯では食材料費相当(月5,000円程度)で済むケースもある(厚生労働省)。

ふたつ、在宅+通所(生活介護など)。親が担う時間コストが大きいが、現金ベースの出費はグループホームより軽くなる場合がある。問題は、この形は「親が元気でいられる期間」にしか成立しないこと。私がいなくなった後の選択肢としては、前提にできない。

みっつ、就労継続支援B型。働ける場合の選択肢だが、厚生労働省「令和5年度工賃(賃金)の実績」によれば、B型事業所の全国平均工賃は月額23,053円(※令和6年度報酬改定で算定方法が見直されており、従来方式の令和4年度は月額17,031円)。数字だけ見ると改善しているように映るが、どちらにしても、ここで自立した生計を立てるのは現実的ではない。工賃は収入というより、社会参加の対価に近い。

仮に、タカラが20歳から80歳までの60年間をグループホームで暮らすとする。自己負担を多めに見て月10万円、医療・衣類・雑費・帰省等で月3万円、合計月13万円と置く。

13万円 × 12ヶ月 × 60年 = 9,360万円

※この月10万円という金額は、所得区分や地域、ホームの運営形態で大きく変わる説明用の上限シナリオだ。実際には低所得世帯でかなり小さくなるケースも多いが、設計は「ワーストを置いて始める」のが鉄則なので、多めに置く。

もちろん、障害年金や各種支援が入るので、これは「総支出」であって「親が遺すべき額」ではない。だが、一人の人間が60年生きるということは、まずこれくらいの金額が動くという事実からスタートしないと、設計を誤る。

制度でどこまで埋まるのか

制度ざっくり内容目安の金額
障害年金(1級)重度の知的障害などで認定月86,635円/年 約104万円
障害年金(2級)1級より軽い区分で認定月69,308円/年 約83万円
特定贈与信託(特別障害者)信託を通じた贈与が非課税に6,000万円まで非課税
特定贈与信託(上記以外の特定障害者)同上3,000万円まで非課税
※令和7年度(2025)の基本額・制度概要。最新は日本年金機構・国税庁等でご確認ください。

次に、制度でどこが埋まるかを見る。

障害年金。重度の知的障害で1級が認定されれば、月額86,635円(年額1,039,625円)。2級なら月額69,308円(年額831,700円)──これは令和7年度(2025年度)の基本額で、日本年金機構の公表値だ。仮に20歳から80歳まで60年受給すれば、1級で総額およそ6,240万円。ここは親亡き後の生活費の、最も太い柱になる。

特別障害者扶養信託(特定贈与信託)。親が信託銀行等を通じて障害のある子のために信託を組むと、特別障害者の場合は6,000万円まで贈与税が非課税となる制度だ(国税庁「No.4405 贈与税がかからない場合」、および信託協会)。私はこの制度を、将来の柱の一本として視野に入れている。

成年後見制度。判断能力が不十分な人の財産を守る制度だが、運用コストと使い勝手の評判には賛否がある。親族後見が難しい場合は専門職後見となり、月額2〜6万円程度の報酬が発生するケースが多い(家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」)。最高裁の実情調査では、後見人への報酬平均は年額およそ33万5,000円(月額約2.8万円)とされる。必要な制度ではあるが、「入れれば解決」ではなく「入れたうえで何を遺すか」を考える制度だと、私は理解している。

ざっくり合算すると、障害年金(1級・60年)で約6,240万円、扶養信託で最大6,000万円。この2本で、先ほどの9,360万円はほぼ埋まる計算になる。

だが、安心してはいけない。年金は現役世代の人口構成に依存する。扶養信託は「まとまった額を用意できた親」のための制度だ。制度で埋まる「はずの部分」は、私たち親が前提を作って初めて埋まる。ここを私は見落としたくない。

——とはいえ、この制度の地図が頭に入っているだけで、夜の不安はかなり減る。「どこが埋まって、どこが自分の仕事か」が見えるだけで、毎日の過ごし方が変わる。私はこれを書き出して整理した日から、ずいぶん楽に笑えるようになった。

私がやっている「資産の設計思想」

ここから、具体の設計の話をする。金額は書かない。身バレのリスクと、将来タカラの生活が人目に晒される可能性を避けるためだ。でも、考え方は全部出す。金額より、考え方のほうが再現性があるから。

私の金融資産は、ざっくり3つの箱に分けている。

箱①:株式(高配当+成長)

株式で相応の規模を持ち、そのうち過半を高配当株に寄せている。これは値上がり益を狙う配分ではない。タカラのキャッシュフローを作るための配分だ。

高配当株は、元本を切り崩さずに、毎年決まったリズムでお金が入ってくる。タカラの生活は、私が死んだ後も60年続く。必要なのは「一度の大勝ち」ではなく「60年鳴り続ける仕組み」だ。値動きに一喜一憂しなくていい分、家族との時間も守れる。

私は、リベラルアーツ大学(リベ大)で学んだキャッシュフロー重視の考え方を、この設計に当てはめている。元本を切り崩さず、生活のコアを配当で回す。シンプルだが、障害のある子を持つ家庭にこそ、この思想は効くと私は思っている。

箱②:企業型DC

老後の私と妻のための箱だ。ここは別建てにしていて、タカラのために崩す設計はしない。親が老後に困窮すれば、結局タカラの生活も崩れる。私たち親の老後は、タカラの人生の土台でもある。

箱③:生活防衛資金(現金)

どんな設計でも、ここが薄いと上の2箱が崩れる。現場で15年、原価管理と人時管理をやってきた人間の直感として言うと、在庫と資金繰りは似ている。余裕のない在庫は事故るし、余裕のない現金も事故る。

やらないこと

一方で、やっていないこともはっきり書く。

  • 個別銘柄の短期売買で一発当てに行く行為
  • レバレッジをかけた信用取引
  • 仮想通貨への大きな配分
  • 理解しきれていない金融商品への資金投入

私が15年現場で学んだのは、「早く上げる」より「下げない」ほうが、設計問題としてはるかに強いということだ。惣菜の原価管理と同じだ。派手な売上より、崩れない粗利のほうが、15年続く。

なお、ここに書いた内容は私個人の設計思想であって、特定の銘柄や商品を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任で行ってほしい。

お金だけでは足りない──居場所と役割の話

ここまで、お金の話をしてきた。でも、私がほんとうに怖いのは、お金が足りないことではない。

お金があっても「そこに居ていい理由」がない場所に、人は長くいられない。これは、惣菜の現場で15年、パートさんや社員を見てきて、私が確信していることだ。人が仕事で擦り減るのは、労働時間そのものではなく、「自分はここに必要とされているのか」が曖昧なときだ。

タカラに必要なのは、お金だけではない。居場所と、小さくていいから役割だ。

だから私は、いつか盆栽を核にした居場所づくりができたら、と考えている。障害のある人が、手を動かし、植物を育てて、誰かに渡して、「ありがとう」を受け取れる場所。親亡き後、タカラが帰っていける空間。そんなものがいつか作れたらいい、というぐらいの温度で、まだ頭の中にある。

正直に書くと、これはまだ「仮の仮」の構想だ。事業計画書の前段階、構想のスケッチですらなく、その手前のラフスケッチぐらい。盆栽である必然性も、規模も、場所も、何ひとつ決まっていない。それでも書いておくのは、ブログを始めた理由のひとつが、この未来像を少しずつ形にしていく過程そのものを、同じ悩みを抱える人と共有したいからだ。完成品を売り込むより、プロセスを一緒に歩く人を増やしたい。

いつか、何かになるかもしれないし、ならないかもしれない。でも、考えること自体をやめない親でいたい。タカラの人生は、これから先もずっと続くから。

まとめ

親亡き後の問題は、4つの層でできている。

  1. 生涯コストがどれくらいか(冷静な試算)
  2. 制度でどこまで埋まるか(年金・扶養信託・成年後見)
  3. 残りを何で埋めるか(資産の設計思想とCF)
  4. お金では埋まらない最後のピース(居場所と役割)

私は、タカラが35歳のとき、自分がもう側にいない可能性を前提に生きている。悲観しているのではない。設計を前倒しで始めているから、毎日をちゃんと笑って過ごせている。大変な日もあるし、楽な日もある。でも基本は、幸せだ。そう言い切れる準備を、数字と制度でちゃんと敷いておきたいだけだ。

同じように深夜に電卓を叩いている親がいたら、この記事のどこかひとつでも、明日の一歩に繋がればと思う。

盆栽の構想や、制度の使い方、設計思想の各論については、これから記事を積んでいく。よかったら、ブログを購読して一緒に歩いてほしい。

タカラのためにできることは、まだある。そして、それを考えている今日もまた、悪くない一日だ。

主な出典

※本記事の制度解説は執筆時点(令和7年度/2025年度基準)の公表情報に基づきます。実際の受給可否・金額・適用は個々の状況で変わりますので、最終判断は専門家(社会保険労務士・税理士・司法書士等)にご相談ください。また、本記事の資産に関する記述は個人の設計思想の共有であり、特定の金融商品の推奨ではありません。


※本記事は、重度知的障害の子を持つ一個人(父親)の考え方と、一般的な制度情報をまとめたものです。投資助言・税務助言ではありません。障害年金・特定贈与信託・成年後見などの制度は改正されることがあり、金額や要件は時期・所得区分・自治体によって異なります。実際の手続きや資産の判断は、必ず公的機関(日本年金機構・自治体の福祉窓口など)や専門家(社会保険労務士・税理士・ファイナンシャルプランナー等)に最新情報をご確認のうえ、ご自身の責任で行ってください。

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