発語のない息子が、自転車の後ろで歌っている。700円のワッフルを買いに行くだけの休日

朝の住宅街を自転車で走る父と、後部座席で歌う男の子の後ろ姿。前カゴにワッフルの紙袋 育てる日々

休みの日、息子のリョウと2人で自転車に乗って、大宮駅前までワッフルを買いに行きます。

片道約30分。買うのは4人分で約700円のワッフル。それを買って、食べて、帰ってくるだけ。

ただそれだけの話なんですが、これがわが家の、ちょっと自慢のルーティンです。

自転車の後ろの席で歌う男の子と、漕ぐ父親の後ろ姿(イラスト)

後ろの席から、歌が聞こえる

リョウは重度の知的障害があって、言葉を話しません。

会話としての言葉は、7年間、まだ一度も聞いたことがありません。

そのリョウが、自転車の後ろの席では歌っているんです。

歌詞はありません。メロディと呼んでいいのかも分かりません。でも、風を受けながら、機嫌のいい声がずっと後ろから聞こえてくる。

信号待ちで振り返ると、目が合って、また歌う。

言葉はなくても、「楽しい」はこんなにはっきり伝わるんだな、と毎回思います。

正直に書くと、最初にあの声を聞いた日、私は前を向いたまま、ちょっと泣きそうになっていました。信号が青になっても、少しだけ漕ぎ出すのが遅れました。

父の設計ノート:この30分は「一石四鳥」

感動的に書きましたが、実はこのルーティン、父親としてはかなり計算して設計しています。整理すると一石四鳥なんです。

① リョウが楽しい

リョウは外出が好きで、自転車の後ろが大好き。歌が証拠です。

② 私の運動になる

往復約1時間、太ももにしっかり来ます。ジムに行く時間もお金もいらない、実にコスパのいいトレーニングです。

③ 妻の負担が減る

子ども2人を連れての時間は、正直かなり大変です。リョウを連れ出している間、妻は仕事を進めたり、一息ついたりできます。

④ 娘がお母さんを独り占めできる

これが地味に大事で。娘のメグは9歳。普段はどうしても「リョウ優先」になってしまう場面が多いんです。お母さんを独り占めできる時間は、メグにとってのごほうびでもあります。

700円と太もも筋肉痛で、家族4人分の満足が買える。わが家ではこれを超えるコスパの外出をまだ知りません。

唯一の弱点

この完璧なルーティンには、ひとつだけ穴があります。

ワッフル、体にいいもんじゃないんですよね。

健康のために自転車を漕いで、その先で甘いものを買って食べる。冷静に考えると差し引きゼロな気もしますが、リョウとワッフルを食べるこの時間をやめる気は、今のところまったくありません。

健康は大事。でも、たまの休日くらいはいいでしょう、ということにしています。

「特別なこと」じゃなくていい

障害のある子との休日って、「どこに連れて行こう」「何をさせてあげよう」と、つい構えてしまいがちです。私もそうでした。

でも、リョウが一番いい声で歌うのは、テーマパークでも療育のプログラムでもなくて、父の背中の後ろでした。

大がかりなことじゃなくていい。本人が好きな「移動」と、好きな「おやつ」を1本の線でつなぐだけで、休日は十分成立する。

来週もたぶん、後ろから歌が聞こえてきます。

それを聞くために、父は今日も太ももを鍛えておきます。

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