異動が決まった
異動が決まりました。
引き継ぐ相手は、初めて部門の責任者になる子です。これまでずっと一緒にやってきて、仕事はできる。でも「責任者」は初めてになる。
決まったあと、その子の顔を見ていて、不安そうなところが2つあるなと思いました。
ひとつは、メンバーさんとの関わり方。もうひとつは、発注。
どっちも、マニュアルには載っていないやつです。
15年やってきて、何も残していないことに気づいた
僕は食品スーパーの惣菜で15年やってきました。
その15年で溜まったものは、たしかに自分の中にあります。あるんですが、どこにも書いていない。
引き継ぎって、普通は「この棚の鍵はここ」「この書類はここに出す」みたいな話になります。それは引き継げる。でも、僕が本当に渡したいのは、そこじゃなかった。
発注をどう考えるか。人にどう声をかけるか。
そのへんを何も残さないまま異動したら、その子はゼロから15年ぶんを自分でやり直すことになる。それはさすがに、置いていき方として雑すぎるなと思いました。
しかも僕は、その「考え方」を、人に説明できる言葉にしたことが一度もなかった。ずっと体で覚えてやってきたので。

しゃべった。それだけ
で、どうしたか。
しゃべりました。AIに向かって。
文章を書こうとすると、絶対に止まるんですよ。「まず目次を作って……」とかやり始めて、そのまま何日も経つ。自分のことなので分かります。
だから書かずに、しゃべった。
しかも、その子に話しかけるときの口調そのままで。「あのさ、発注ってのはこう考えるんだぞ」「メンバーさんにはこう言ったほうがいいぞ」と、飲みながら話すみたいな調子で、全部ぶちまけました。
そのあと、こう頼んだだけです。
「これを、見やすい資料にしてPDFにして」
出てきました。
資料に入れた中身
細かいところは社内の話なので書けませんが、大枠はこんな感じでした。
発注について
- 発注は「売れた数」じゃなく「明日の状況」を見る。昨日100個売れたから今日100個、ではない。天気、曜日、近隣のイベント、特売のかぶり。数字の後ろにある理由のほうを見る
- 迷ったときにどっちに倒すか、を先に決めておく。多めに倒すのか、少なめに倒すのか。その場で毎回悩むと消耗するし、判断がブレる
- 外した日は、外した理由を書いておく。ロスを出した日の記録がいちばん後から効く。次の年の同じ日に効いてくる
メンバーさんとの関わり方
- 指示は「やること」より先に「なぜ」を言う。理由がないと、応用が効かない。応用が効かないと、責任者がいない日に現場が止まる
- できていないことを指摘する前に、できていることを1つ言う。順番の問題。同じ内容でも、入り方がまるで変わる
- 自分が動くのは最後。責任者が自分で全部やり始めると、一瞬は早いけど、そのぶん誰も育たない。これは僕自身がいちばん失敗したところです
書き出してみると、当たり前のことばかりです。でも、当たり前のことが書いてあるものが、どこにもなかった。
印刷して、渡した
PDFにして、印刷して、その子に渡しました。
けっこう感謝されました。「これ、ずっと聞きたかったやつです」と言われて、正直、ちょっとうるっときました。
聞きたかったんだ、と思って。
僕は15年、教えてきたつもりでいたけど、言葉にして渡したのは、たぶん今回が初めてでした。
なんで今までやらなかったんだろう
資料ができたあと、少し落ち込みました。
こんなの、その気になれば何年も前に作れたはずなんです。30分しゃべるだけでよかった。それを、忙しいを理由にずっとやらなかった。
僕が異動するまでやらなかったということは、異動がなければ、一生やらなかったということです。
置いていくものが何もない状態で、僕はずっと働いていた。これは、けっこうこたえました。
頭の中にあるものは、しゃべれば出てくる
伝えたいのはひとつです。
資料を作ろうとするとできない。でも、しゃべるだけならできる。
紙に向かうと固まる人でも、後輩に話しかけるつもりでしゃべるなら、するする出てきます。僕はまさにそれでした。
出てきたものを整えるのは、もうAIがやってくれます。人間がやるべきなのは、自分の頭の中にあるものを、一回外に出すことだけです。
引き継ぎでも、家族に残すものでも、たぶん同じだと思っています。
僕の頭の中には、他にもまだ、どこにも書いていないものが残っている気がします。それを少しずつ出していきたい。

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